プリント配線板(Printed Wiring Board、PWB)は、自動車や電化製品、コンピュータ、産業用機器など、電気で動くほとんどの製品に使用されており、エレクトロニクス製品の小型化や高性能化に大きく貢献しています。現代のエレクトロニクス製品に欠かせない重要な部品です。
このページではプリント配線板の基礎知識として、いわゆる「プリント基板」との違いや素材・回路層数・構造別の種類、製造工程について解説します。なお、プリント配線板にまつわる解説は業界的に揺らぎが多いですが、この記事ではJIS規格をはじめとした公的規格になるべく従う形で解説を行います。自社の機器に使用するプリント配線板を調達・検討する際の参考としてぜひご一読ください。
01プリント配線板とは
プリント配線板(Printed Wiring Board、PWB)とは、絶縁体で構成された基板の表面や内部に、銅箔などの導電材料を用い、導体回路を形成したものです。部品を実装(取り付ける)前の状態を指し、実装後の基板と区別して「生板」や「生基板」とも呼ばれる場合もあります。一般的にイメージしやすい形で例えるなら、電気製品の中にあるさまざまな電子部品が取り付けてある緑色の板から、電子部品を取り除いた板そのものがプリント配線板です。
基板上に配置される抵抗やコンデンサ、ICパッケージなどに電力を供給したり、電気信号を伝えたりする機能を持った、電子機器には欠かせない部品です。プリント配線板は自動車や電化製品、コンピュータ、ロボットなど電気で動くほとんどの製品に使われています。
プリント配線板とプリント回路板の違い・プリント基板の意味
プリント配線板とよく似た言葉にプリント回路板(Printed Circuit Board、PCB)やプリント基板などがありますが、それぞれ異なった定義を持つため注意が必要です。
プリント回路板とは、プリント配線板および、プリント配線板に電子部品を取り付け、電子回路として動作可能な状態にしたものの総称です。プリント回路板は、電子機器内で電力や信号を伝達し、取り付けられた電子部品を機能させる重要な役割を担っています。
プリント基板は日本産業規格(JIS規格)にはない用語で、「プリント配線板」や「プリント回路板」を指す形で使われるのが一般的です。ただし、公的規格で定義されていないため、使う人によって意味はまちまちになる用語です。
また、配線板の各パーツのうち、代表的なものの名称は、以下の通りです。
パターン | プリント配線板上に形成された図形部分です。導電性のもの、非導電性のものの双方をパターンと呼びます。例として、基板上、または内部に形成された導体(通常は銅)の配線(回路)部分はパターンです。 |
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リード(ピン) | 配線板に取り付けられる部品の脚部分です。この脚を介して電子部品に電気が供給されます。 |
めっきスルーホール | プリント配線板の表裏を電気的に接続する(貫通接続を行う)ため、壁面に金属を析出させた穴です。略してPTHと使われる場合があります。リード(ピン)を挿入し部品を取り付け、通電させる穴としても使用されます。 |
ランド | 部品の取付けおよび接続に用いる、導体のパターンです。スルーホールを補強したり、スルーホールとパターンを繋いだり、電子部品の端子と電気的に接続したりするための接点となります。 |
パッド | 表面実装用部品を搭載するためのランドです。電子部品の端子とプリント配線板上の回路パターンを電気的に接続する接点となります。 |
めっきスルーホールやパッドに電子部品を接続することで、プリント回路板ができます。
プリント配線板および、電子回路として動作可能な状態の配線板の総称がプリント回路板、非公的な呼び方が「プリント基板」と考えれば、それぞれについて分かりやすくなります。
プリント配線板と半導体の違い
プリント配線板と関連深い部品に、半導体があります。
半導体とは、電気をよく通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持つシリコンなどの物質、およびそれらの物質を原料としたトランジスタやダイオード、集積回路(IC)などを指します。
集積回路(IC)とは、「Integrated Circuit」の略で、シリコンなどの半導体材料でできた小さなチップに、トランジスタ、抵抗、コンデンサ、ダイオードなどの電子部品の機能を集積した回路のことです。演算や記録、センサーなどの役割を1つのチップで実現できるのが特徴です。
プリント配線板と同じく電子回路を形成しますが、その材質やサイズ、機能性などに大きな違いがあります。
集積回路(IC)はコンピュータなどの精密電子機器に必須であり、金属の端子(リードや電極パッド)を数多く備えた黒い部品(パッケージ)としてプリント配線板に取り付けられているところがよく見られます。プリント配線板は半導体でできた電子部品に電力を供給・電気信号を伝達して、電子回路を動作させるのに必要な部品です。
02プリント配線板の役割
プリント配線板は、電子部品を電気的に相互接続するとともに、電力を供給しながら、各部品を固定する役割を持ちます。
1943年にプリント配線板が生まれる前は、電子機器を制作する際に部品と部品を手作業で配線し、シャーシに固定されたラグ端子などにはんだで部品を取り付けていました。一つひとつの部品をはんだ付けする作業は、多くの手間と時間を要し配線ミスを誘発するだけでなく、はんだ付けが不完全な場合接続が不安定となり故障の原因にもなります。
プリント配線板の発明によって、電子機器の部品を簡単に接続・配置できるようになり、少ない手間や時間で安定した品質の製品を大量に生産できるようになりました。また、電子部品を効率よく1か所にまとめて配置できるようになり、電子部品の小型化、高性能化と合わせて、電子機器の急速な発達を促し人間社会に大きな恩恵をもたらしています。現在の電子機器にプリント配線板の存在は欠かせません。
03プリント配線板の種類
プリント配線板は、使われる素材や回路層数、構造によってさまざまな種類に分けられます。以下では、それぞれの視点から分類された、プリント配線板の種類について解説します。
素材による分類
プリント配線板を素材によって分類する場合、代表的な種類は以下の4つです。
リジッドプリント配線板 (リジッド基板) |
銅張積層板を使用した剛性のある絶縁基板上に、導体パターンを形成したプリント配線板をリジッドプリント配線板と呼びます。なお、銅張積層板とは、紙やガラスクロスなどの基材に樹脂を含浸させたシートを積層し、加圧加熱処理した積層板の両面に銅箔を施した板です。 電子機器の筐体に収められて固定されているプリント配線板の多くは、リジッドプリント配線板です。頑丈で耐久性が高く、電子部品を取り付けやすい点がメリットです。幅広くさまざまなエレクトロニクス製品に使われています。 |
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フレキシブルプリント配線板 (フレキシブル基板、フレキ基板) |
可撓性および絶縁性のある、ポリエステルやポリイミドなどのフィルム上に導体パターンを形成したプリント配線板です。 複雑な形状に合わせた組み立てが必要な機器や、機械の可動部分に使用されます。また、ノートパソコンや携帯電話の折り曲げ部分にも使われています。 |
フレックスリジッドプリント配線板 (リジッドフレキ基板、 フレックスリジット基板、 リジッドフレキシブル基板) |
リジッド基板をフレキシブル基板でつなぎ合わせ、リジッド基板の頑丈さと、フレキシブル基板の柔軟性の双方を持たせた基板です。部品を実装するリジッド部と、曲げ伸ばしが可能なフレックス部で構成されています。産業用カメラやプリンターなど、振動や衝撃に対する耐久性が求められたり、可動部分があるエレクトロニクス製品で多く使用されます。 |
メタルコアプリント配線板 (金属ベース基板・メタルベース基板) |
プリント配線板の部品を支える部分(支持体)に金属板を用いたプリント配線板です。放熱性の高いアルミ板や銅板の上にリジッド基板を取り付けたような構造を持ち、アルミ基板、銅ベース基板など素材によっていろいろな種類があります。ヒートシンクや電源の設置層として用いられます。 |
回路層数による分類
1枚のプリント配線板の上に配置できる配線回路の量は限られています。一方で、電子機器の発達とともに、必要な電子回路の量は増えています。こうした状況に対応するために、1枚のプリント配線板の内部に複数の回路のある層を作り配線の密度を増やした、多層プリント配線板が生まれました。
回路層数別のプリント配線板の分類は、以下の通りです。
片面プリント配線板 (片面基板) |
導体パターンが片面のみにプリントされた基板です。配線が1面にしかなく、複雑な配線パターンを作れないため、部品を多く載せられません。一方で、製造コストを低く抑えられるメリットがあります。 |
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両面プリント配線板 (両面基板) |
両面に導体パターンをプリントした基板です。基板に穴を開け、銅めっきで上下の面をつなぐことで、立体的な配線パターンを作れます。載せられる部品数が片面板より多く、より小型化・高性能化できるメリットがあります。 |
多層プリント配線板 (多層基板) |
導体層が3層以上あるプリント配線板です。穴を開け、銅めっきで表面層と内層を電気的に接続します。それぞれの配線を複雑かつ立体的に組み上げて配線密度を上げられるため、両面プリント配線板よりも多くの部品を1枚の板に集約できるのがメリットです。 |
また、多層プリント配線板はさらに細かく分類可能です。多層プリント配線板の種類として、代表的なものには以下があります。
- 一般多層配線板(中低層)
絶縁層と導体層を重ね合わせて作られた、一般的に普及しているプリント配線板です。スルーホールを開け、銅めっきなどで層間を接続します。 - 高多層高密度配線板
多層プリント配線板のうち、リンクステックでは20層以上の配線板を「高多層高密度配線板」と呼んでいます。多層プリント配線板の中でも高密度で高機能な配線板で、多くの配線を収納できます。主にサーバーやネットワーク機器、半導体検査装置などの複雑な電子機器に使用されます。 - ビルドアップ多層プリント配線板
(ビルドアップ配線板)
導体層と絶縁層を順々に積層し、層間を接続して積み上げていく多層プリント配線板です。レーザー穴は通常のスルーホールより微細にできるため、高い配線密度が得られ、基板サイズを小さくできるのが特徴です。小型で多機能な電気製品によく使われます。 - マルチワイヤ配線板
リンクステックの独自技術を使用した製品で、絶縁被覆された銅ワイヤにより回路を形成する多層プリント配線板です。同じ層に多くの配線を立体交差できるため、1層ごとの配線を高密度化可能で、同じ厚みや層数でも普通の多層プリント配線板より非常に多くの配線を収納できます。また、直径が一定な銅ワイヤを用いることにより、通常の多層プリント配線板よりばらつきの少ない安定した性能を得ることができます。
04プリント配線板が使われている機器
プリント配線板は電気で動くほとんどの機器に使われています。下記にその代表例を挙げます。
- 計測機器
- 人工衛星
- 医療機器
- ロボット
- ゲーム機
- パソコン
- 情報通信機器
- 半導体検査装置
- LED照明
- 自動車
- スマートフォン
- 産業用機器
など
次世代の高速通信である5G・6Gに対応した通信機器や、自動運転車、業務を自動化するAIを備えた産業用機器などには、高密度で高性能なプリント配線板が必須です。
照明器具や自動車などはこれまでより電化製品としての要素が強くなり、これまで使われていなかった部分にもプリント配線板は使われる様になっています。人の仕事を肩代わりする配膳ロボットや介護機器、ウェアブル機器などの新しい分野の需要も併せて、プリント配線板のニーズは伸び続けています。また、次世代以降のエレクトロニクス製品にはより複雑な機能が求められることから、さらに高密度・高機能なプリント配線板が必要とされています。
05プリント配線板の製造工程
プリント配線板は精密な部品であり、専門性の高い製造技術が欠かせません。以下では、一般的な多層板を製造する工程(サブトラクティブ法)を解説します。
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【1】銅箔と絶縁層(樹脂)でできた基板(銅張積層板)に、光で硬化するフィルム(ドライフィルム)を張り(ラミネート)、配線図をプリントしたネガフィルムを重ねてライトを当てます(露光)。光が当たった部分だけフィルムが固まります。
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【2】弱アルカリ性の薬液で、固まっていない部分のドライフィルムを取り除いた(現像)後、酸性の薬液で露出した部分の銅を溶かし(エッチング)、残った銅で回路が作られます。次に強アルカリ性の薬液で銅回路の上に残っている硬化ドライフィルムを取り除き(剥離)、内層板が作られます。
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【3】自動外観検査機で内層板の回路をスキャンし、設計データと比較して、回路に欠陥がないかチェックします。
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【4】内層板と絶縁層(接着層)および銅箔を重ね合わせて(積層)プレスし、積層基板を作成します。重なった積層基板にドリルで穴をあけ、銅めっきをすることでめっきスルーホールを形成し各層の回路を電気的につなぎます。
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【5】めっき後の基板に再度ドライフィルムをラミネートして、内層と同様に外層(表面層)の回路を作ります。同じく自動外観検査機を用いて設計データと比較し、回路に欠陥がないかチェックします。
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【6】プリント配線板に部品を取り付ける際に使用する「はんだ」から回路を保護するインキ「ソルダレジスト」を塗布します。ソルダレジストは、紫外線と熱で固まるため、ネガフィルムを重ねてライトを当てた(露光した)上でアルカリ現像により部品を取り付けるパッドやスルーホールを露出させます。最後に本乾燥によりソルダレジストを硬化させます。
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【7】外形ルーター加工や外形プレス加工により、お客様に納める形状に加工します。できあがった基板を電気的に検査し、問題がなければはんだレベラーやプリフラックス、金めっき等により表面処理を行います。
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【8】最終的に自動外観検査・導通検査および目視検査をして、品質を確認し梱包後出荷します。
06まとめ
プリント配線板は、エレクトロニクス製品に欠かせない重要な部品であり、電子部品の固定と部品間の電気接続を行うパーツです。素材や形態によってリジッド・フレキシブル・フレックスリジッドの各プリント配線板に分類できるほか、回路層数によっても、片面・両面・多層の各プリント配線板に分けられます。
5G・6Gに対応した通信機器や、自動運転車、業務を自動化するAIを備えた産業用機器は、高密度で高性能な配線板がなくてはなりません。プリント配線板は、これからも次世代の技術を支える重要なパーツであると言えます。